ご挨拶

「放射線災害の全時相に対応できる人材養成」事業の推進に向けて

 

 私たちの暮らしの中で、放射線は無くてはならない存在となっております。考えてみてください。皆さんの体調がおかしい時はどうでしょうか?放射線を用いた画像診断により、身体の隅々まで検査をすることで病気の予防や早期発見、さらには治療方針を決定することができます。がんになってしまった場合はどうでしょうか?外科療法、薬物療法と並び、三大療法の1つに位置付けられている「放射線療法」により、がんへ立ち向かうことができます。では、医療の外に目を向けてみます。私たちが日々の生活の中で当たり前のように使っている電気は、どのようにして作られるでしょうか?資源の少ない島国である日本では、先人の努力により今や世界をリードする原子力発電技術を有し、これにより私達の豊かな生活が支えられています。ですが、そのような私たちの生活の身近にある放射線が、抗うことのできない自然災害により突如として牙をむくかもしれません。豊かな生活と引き換えに、私たちはそのリスクと向き合わなければなりません。
 本プログラムは、放射線災害発生時にリーダーシップを発揮できる人材、災害収束後も中・長期的に住民の心理的なケアをできる人材、さらには、疫学研究を率先して行い放射線災害の経験をエビデンスとして後世に伝えていける人材養成を目指しております。現在、学部(類)教育、大学院教育、卒後生涯教育(履修証明プログラム)の3つを柱に事業を進めており、どれも充実した内容となっております。近年、生涯を通じて学び続けるという大きな社会ニーズがあり、義務教育期間や大学で学んだ後に、「教育」と「就労」のサイクルを繰り返す、いわゆるリカレント教育(学んだことを職業に活かすという循環型教育)が注目を集めています。そのような状況の中、本プログラムの卒後生涯教育は、社会人や企業等のニーズに応じた実践的・専門的なリカレント教育システムとして、文部科学省から職業実践力育成プログラム(Brush up Program for professional:BP)の認定を受けております。また、厚生労働省から「専門実践教育訓練講座」の指定を受けております。
 本プロジェクトは、本邦における放射線健康リスク科学教育の先駆的な役割を担っていると考えております。みなさまのご支援ご協力をお願いするしだいです。

筑波大学 医学医療系

榮 武二

RaMSEP-beyondとして

 

 2011年3月、残念なことに福島第一原子力発電所の事故が起こりました。その際、国民が多くの被害を受けたのはもちろんですが、放射線災害が発生した際に対応できる人材の不足が明確となりました。「放射線災害」への対応と一括りにしても、発生後の時間経過とともに必要なスキルが異なります。放射線災害発生直後は救急医療と放射線防護、その後の急性期では放射線計測、緊急被ばく医療、亜急性期では精神的ケアを含めたクライシスコミュニケーション、災害回復期では疫学、統計、除染、リスクコミュニケーション、メンタルヘルス、次の災害に備えた事前準備期では災害訓練など、時間経過(時相)とともに求められる必要なスキルは変化しますし、身に着けるべき知識や技術は膨大です。日本においては、時相により変化する必要なスキル、そして膨大な身に着けるべき知識や技術を教育するためのプログラムが極めて少なく、人材不足の最大の要因となっています。
 RaMSEPは、この問題を解決できるプログラムとして、平成28年度文部科学省「課題解決型高度医療人材養成プログラム」(放射線災害を含む放射線健康リスクに関する領域)に採択されました。文部科学省の補助を受けながら事業を進め、多くの実績をおさめてきたと自負しております。実績に関してはHP内の報告書をご確認ください。このメッセージを読んでくださっている中の多くの方は、RaMSEP???となっているかと思います。これは、radiation medical health science education programの略で、日本語にすると「放射線健康リスク科学教育プログラム」となります。本プログラムは、将来起こりうる放射線災害のリスク対策として、放射線災害のあらゆる状況、すべての時系列の対応を想定した“全時相”をキーワードにして「スペシャリスト」の人材育成を進めるべく、学部(類)教育、大学院教育、卒後生涯教育の3つを柱に、放射線災害と防護に関する実践的な教育を行っています。補助金事業としては2021年3月末で終了しましたが、国立大学の責務として、この分野の人材育成は極めて重要だと考え、学内からの多大な援助のもと「RaMSEP-beyond」として、プログラムを継続しております。
 今もなお、全国の放射線災害教育のモデル事業となるように努力しております。みなさまのご支援をお願いするしだいです。

筑波大学 医学医療系
放射線健康リスク科学グループ

 磯辺 智範